2013年11月26日火曜日

戸隠へ

どうしても新蕎麦を味わいたくて、土曜日は戸隠まで車を走らせた。信濃町のインターを降りた時点では、町はゴーストタウン。だが、山深い戸隠の杜へさしかかった途端に、どこにも車を停めることができない!という混雑ぶり。奥杜は、先週降ったと見られる雪に包まれ、ただでさえ険しい戸隠の山肌が、雪をつけて更に厳しい表情をしていた。お目当ての蕎麦屋もいっぱいで、ならば先へ行ってみようと、中杜方面へ。そこは宿坊が軒を連ねるエリアで、落ち着いた雰囲気が漂っていた。なんだかいい予感がする。

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やはり、美味しいものはあるもので、山の湧き水を使った蕎麦屋を見つけた。口に運ぶと、新蕎麦の濃厚な香りと水の良さがストレートに伝わる。今の時代、いいそば粉を使った蕎麦屋はどこでもあるだろう。しかし、この水には叶わない。

近くには、特産の竹細工の店が何軒があり、独特な模様の美しいざる作りを見ることができる。ざるは、我が家もかれこれ10年近く愛用しているが、根曲がり竹の醸し出す風合いとタフさには惚れ惚れしてしまう。

今回は、左の大きな籠を購入。これからの季節、我が家の玄関ホールは果物や野菜の貯蔵スペースになるので、それらの入れ物として。美味しい食材は、それに見合った器を合わせてあげたい。

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戸隠の竹細工に使われる竹は、”根曲がり竹”というもので、戸隠山からいただいてくるのだそうだ。数少ない職人たちは毎年9月から約一ヶ月をかけて、山へ白装束で入るという。ご神体である山とともにある、素朴な暮らし。戸隠の竹細工を眺めていると、質実剛健な、それでいて温もりのあるこの土地の空気を垣間みることができる。

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2013年11月14日木曜日

残されたのは、鮮やかな木の実

ここにきて、寒さの質が変わってきた軽井沢。明け方はマイナス5度、日中も5度ほどしかなく、浅間山も少しだけ冠雪。昨日などは、離山の霧氷が夕方まで消えることはなかった。私は毎朝、子供が眠っている間にその日分の薪を、デッキの薪棚から運び入れるのが日課。玄関のドアを開けると、まず空気の冷たさに驚いて、壁にかけてある上着を着込む。少し前までは、ちょっと外へ出るのに上着は不要だったはず。が、今ではその一手間を面倒と思わなくなった。

”子供は風の子”とは、よく言ったものだと思う。どんなに寒い日でも、晴れてさえいれば「外へ行こうよ!」と指を指して私に訴えてくる。だから私も、本当に外で過ごすことが増えてきた。子供のように動いていると、不思議なもので寒さも和らいでゆく。

空はいつの間にこれほど蒼くなったのだろう。僅かに葉っぱを残した落葉樹の枝が、隣り合った枝とぶつからずに生きていることの不思議。透き通る鳥の声。こんなに冷えた日だからなおさら感じるのか?お日様の暖かさはやさしくて、偉大。

この時期の子供は落ち葉でいっぱいになった道を歩くことを、楽しみとしているようだ。わざと音を立てるようにそぞろ歩きをしてみたり、塊の中にダイブしてみたり、しゃがみこんで、大好きな木の棒や実を探していることもある。今日は、落ち葉のクッションの上に偶然落下した(いや、鳥が啄んだ後なのかもしれない)、鮮やかな紫色の実を見つけて大はしゃぎ。小さな瞳はきらきらと輝き出して、しばらくその実を大切に握りしめていたが、ふとした拍子に興味はいつもの石へと変わっていった。私はその実をリビングのガラステーブルの上に置く。紫式部の実は食用で甘いことを知ったばかりだった。これなら誤って口にしても問題はない。それにしても、なんて綺麗な色をしているのだろう。

夜になって、子供は覚えたばかりの、ダイニングの椅子にこしかけるという行為に出た。大人だけの特権のようだったこの場所に自分もいられることが嬉しくて、得意になっている。見ている方はひっくり返るのではないか?とヒヤヒヤするが、意外と安定している。テーブルに乗らずに済むなら、そのままにしておこう。すると...昼間見つけた例の実を手に取り、近くにあったポストカードや紙袋の上に乗せて、潰して、遊びはじめたではないか。

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そろそろ切り絵でもやらせてみようかなと考え、教材を取り寄せていた私は、それを見てまた初心に戻ることに決めた。今はまだ、いろいろなものを見せたり、でかけるだけでいい。それから先は、子供自身が決めることだ。

これから、長い長い冬へと向かう軽井沢。全ての葉を落として、枝先に美しい実だけをつけた木々を眺めていたら、この世の中に無駄なものなど何もなく、すべては誰かの為に。役にたつために存在しているという、とてもシンプルな命の営みに気づかされ、清々しい気持ちになった。

2013年11月11日月曜日

紅葉の見納めに...

落葉松が、まるで降り積もる雪のように辺り一面を金色に染めてゆく。足下は、ふかふかのじゅうたん。そこには、落葉松より先に地面に着地したいろいろな木の葉が、静かに眠りについている。軽井沢の紅葉は早い。どこよりも早いなと思う。今年の紅葉の見納めに、さてどこへ行こうか。

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旧信越本線 碓氷第三アーチ。めがね橋という名で親しまれている、碓氷峠の名所だ。

近づいてゆくと、煉瓦造りが芸術的で素晴らしい。明治時代に、ドイツ ハルツ山鉄道のアプト式を採用したことから、路線後の遊歩道を”アプトの道”と呼んだりもする。今から二十年くらい前になるが(もちろん、まだ新幹線がなかった頃)、私はこの橋を上野駅から乗り込んだ信越本線で渡ったことがあったと、思わず錯覚してしまいそうになった。その時はボックス席にひとり。周囲は故郷上田へ法事の為に帰省する、黒装束の家族だった。初対面だというのにいろいろな話をして、あっという間に長野に着いてしまったことを覚えている。

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橋も素晴らしいが、その下を流れる清流がまたいい。

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橋の上から峠道を見下ろす。オープンカーやバイクで来ている人も多く、晴れ間が約束された土曜日は、みな紅葉を楽しむために遠くからはるばるやってきた様子だった。山が見せてくれる四季折々の表情に、この秋もまた感謝。

2013年11月7日木曜日

2年ぶりの金沢

三連休を利用して、北陸へ旅に出た。ちょうど二年前のこの時期だったと思う。大きなお腹を抱えてあっぷあっぷしながら、特急はくたかに乗り込んだことが、まるで昨日のことのように思い出された。お腹の子は無事に産まれて、現在は一歳8ヶ月に。およそ初めての地とは思えぬ速さで、美術館の庭を休みなく駆け回っていることが嬉しい。しかし、小さな子を連れてアウェイを歩くことは、想像以上に大変なことだ。そのような中で、大人も子供も旅を楽しめたなら、最高。

前回は加賀の宿に泊まり、近江町市場に立ち寄ったくらいだったが、今回はどうしても行きたい場所があった。九谷美術館と二十一世紀美術館だ。

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九谷美術館はその名の通り九谷の歴史を、色ごと(即ち、それが時代を表す)に見せてくれるユニークで贅沢な美術館。ランドスケープデザインも秀逸で、何時間でもいたくなる居心地の良さ。もちろん、プリミティブな庭は子供も大喜び!

二十一世紀美術館もまた、贅沢なパプリックスペースがあり、さすがは美術と”工芸”のまちだなーと感動。

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こちらはタレルの部屋。ほんものの空をすっぱりと切り取る発想に脱帽!壁ぞいに座れるようになっていて、空だけを仰ぐという未体験の心地よさに陶酔する。

金沢は水路のまちである。城や城下町を守るために敷かれた水路がそこかしこに流れ、歩いていると、とても清々しい気分になるのだ。電力に乏しかった明治時代にはこの水の力を借りて、繊維業も盛んだったことを知る。群馬の富岡製糸の次ぐ規模だったそうだ。

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図書館も、なんだかモダン。

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雰囲気のある美味しいパン屋さんもあって。

赴きある城下町の風情と北陸の味覚、生活に根付いた工芸、そこにモダンなアートも加わって。じっとしていられない子供と一緒に歩いた怒濤の三日間だったけれど、いいものがぎゅっと集結したこの街が私は大好きになってしまった。終の住処は金沢?そんな夢を抱いてもいい。

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素敵なファサードだなと思って横を通ってみたら、髪匠ですって。

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近江町市場では、地物の活き”がすえび”と甘エビ、生たこや能登のへしこなどを。まちなかでは、山中塗のワインクーラーや水引細工、九谷の若手作家による酒器などを買って帰路についた。

翌日6日は加能蟹漁の解禁日だったようで、思えば嵐の前のちょっと静かな金沢・加賀だった。